ませんか、トムさんは大変不思議に思ひまして、兎に角表戸をそつと開きますとドッと吹き入る雨風と一緒に一人の若い女が室の中に転りこみました。
トムさんは吃驚してよく/\見ますと、それは羽鳥の羽で出来た黒いマントを着た、それは/\美しい女でした。トムさんは眼玉をくるくるやりました。トムさんはその女の濡れた着物を干してやつたり色々親切に介抱をいたしました。そしてその女に今ごろこの暴風雨にこゝへきた事情をたづねました。女は南の国のお姫さんでした、たくさんの家来を連れて旅行をいたしましたが丁度この土地へ来かゝつた時暴風雨に襲はれて、家来とはちりぢりになつて了つたのです……と答へました。
その翌日すつかり暴風雨が収まつたのですが、そのお姫さんはトムさんの家を去らうとは致しませんでした。その翌日もその翌日も何時まで経つても帰る風は見えませんでした。
(五)
トムさんは朝鍬を担いで野良に出掛けましたが、二時間もたゝぬうちに畑から帰つてきてしまひました。それはトムさんが畑へ働きにいつてもお留守居のお嫁さんが心配で心配で、もしや鼠にでもひかれはしないかと思ふと仕事などは手につきませんので飛
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