鼻の穴から大きな提灯をぶらさげて馬の頸にしがみついたまま、すつかり寝込んでしまひました。

    二
 ふと大将が眼をさましてみますと、自分は馬の背から、いまにも落つこちさうになつて眠つてをりました、
『おやおや、月に浮かれて、とんだところまで散歩をしてしまつた。』
 かう言つて、大将はぐるぐるあたりを見廻しますとそこは、やはり広々とした青草の野原で、あひかはらずお月さまは、鏡のやうにまんまるく下界を照らしてをりました。
 しかし山塞と、だいぶ離れたところまで、きてをりましたので、馬の首をくるりと廻して帰らうといたしました、そして何心なく下をみると、そこは崖の上になつてゐて、つい眼したに街の灯がきらきらと美しく見えるではありませんか。
 すると馬賊の大将は、急に荒々しい気持に返つてしまつたのです。
 そして大胆にも自分ひとりで、この街を襲つてやらうと考へたのです、馬の手綱をぐい/\と引きますと、いままで呑気に草を喰べてゐた馬も、両眼を火のやうに、かつと輝やかして竿のやうに、二三度棒立ちになつてから、一気に夜更《よふ》けの寝静まつた街にむかつて、崖を馳けをりました。
 そして馬賊の大将
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