大将は、お月さまの、すべすべとなめらかな顔と、自分の頤髯のもぢやもぢやと、蓬《よもぎ》のやうに生えた顔とをくらべて考へてみました。
それから馬賊の大将は、裏手の厩《うまや》の中から大将の愛馬をひきだしてきて、それにまたがりました。そのへんは山の上でも、平らな青い草地になつてをりましたので、馬賊の大将は、どこといふあてもなしに、馬にのつたまま、ぶらり/\と散歩をしました。
『けふは、お前の勝手なところにでかけるよ。』
大将はかういつて、馬の長い頸を優しく平手でたたきました。
馬はいつもならば、荒々しく土煙をあげて、街中を狂気のやうに馳け廻らなければなりませんのですが、その夜《よ》は主人のおゆるしがでましたので、気ままに、柔らかい草のあるところばかりを選んで、足にまかせて歩るき廻りました。
大将は草の上に夜露がたまつて、それが青いお月さまの光に、南京玉のやうに、きらきらとてらされてゐる、あたりの景色にすつかり感心をしてしまつて、どこといふあてもなしに歩るきまはりましたが、やがて飲んだお酒がだいぶ利いてまゐりますと、とろりとろりと馬の上で、ゐねむりを始めました。とうとう馬賊の大将は、
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