は、街の一本路を、続けさまに馬上で二三十発鉄砲をうちながら、馳け廻りました。それはかうたくさんの鉄砲をうつていかにも、大勢の馬賊が押しかけてきたやうに街の人々に思はせるためでした。
 はたして街の人々は、大慌てに、そらまた馬賊が襲つてきたと、皆ふるへながら、押入れの中やら、地下室やらに逃げこんで小さくなつてをりました。
 大将は家来もつれず、たつた一人の襲撃ですから、あまり深入りをして失敗をしてはいけないと考へましたので、鉄砲をうつて、街の人々をおどかしてをいてから街の場末の二三十軒だけに押し入つて、いろいろの宝物を革の袋に三つだけ集めました。それを馬の鞍に二つ結びつけ、自分の腰に一つつけて、さつそく引き揚げようといたしました。
 ところが一番最後に押し入つた家《うち》は、一軒の酒場でありましたが、酒場の家の人達は、大将が押し入つてきましたので、驚ろいて奧の方に逃げこんでしまひました。
 馬賊の大将は、がらんとして誰もゐない酒場に、仁王だちになつて、髯を針金のやうにぴんぴん動かしながら
『さあ、みんなお金も宝物《はうもつ》も出してしまへ。』
 と叫びましたが、酒場の中はしーんとして返事
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