と待ち構へてゐた茂作は、ぱつと大きな眼をひらきました。
とたんに茂作は、あやふく屋根の上から転げ落ちるほどにびつくりいたしました。
茂作のつい頭の上に、白い雲にのつた美しい天女がうすもの[#「うすもの」に傍点]の袖を風にひるがへしながら、大きな大きな嚏をつづけさまにしてゐるではありませんか。
『これは、これは美しい箒星のお姫さま』
茂作は思はず、雲の上の天女をみあげながら叫びました。
それはその美しい天女がふさ/\とした金の毛の三|間柄《げんえ》もあるやうな長い箒をもつてゐましたので、すぐに箒星のお姫さまと思つたのでありました。
茂作の思つたやうに、天女は箒星であつたのです。
箒星は、屋根の上の茂作の声に、びつくりして雲にのつて、たかく空にのぼりながら、
『わたしは、煙草の匂ひが嫌ひです。』
かう言つて、雲の上でつづけさまに大きな嚏をいたしました。
そして長い柄の金の箒を、上手に使ひながら夜の空を、きれいに掃き清めだんだんと、遠くの空に行つてしまひました。
箒星の天女の美しさに、茂作はしばらくは、魂のぬけた人のやうに、ぼんやりと屋根のうへに立つてをりました。
その翌
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