晩、茂作は背中に大きな模様のある大漁祝に、村の人から貰つた、新しい浴衣《ゆかた》を着て屋根のうへにあがりました。
『箒星のお姫さま、どうぞ茂作のお嫁さんになつて下さい。』
 茂作は、大きな掌を空にささげながら、箒星の通るときかう言つて、お願ひをいたしました。すると箒星は
『わたしは、煙草の匂ひが嫌ひです』
 と言ひながら、つづけさまに大きな嚏をしながら、夜の空を掃き清め、だんだんと遠くの空に行つてしまひました。
 翌朝茂作は裏の竹林から、長さ二間ほどの太い竹を伐つてまゐりました。
 その竹の節をぬいて長いきせる[#「きせる」に傍点]をつくりました。
 茂作は箒星が自分のお嫁さんになつてくれなかつたので腹をたてたのでした。そして箒星を煙ぜめにして下界に落し金の箒をうばひとつて、その金の箒を古道具屋に売つてお金持にならうと思つたのでした。
 その夜茂作は、長い竹のきせる[#「きせる」に傍点]に、どつさりと刻煙草《きざみたばこ》をつめこんで、箒星のお姫さまの通るのをまち構へました。
 箒星の通りかかつたとき、茂作は用意の竹のきせる[#「きせる」に傍点]で一生懸命になつて、煙を空にふきかけまし
前へ 次へ
全137ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング