てをりました。
 茂作は、ぶつぶつと不平を言ひながら家の中にはひつて、またごろりと横になつて、煙草を吸ひました。
 すると翌晩また大きな声で、茂作の家のうへで、つづけさまに嚏をする者がありました。
 茂作は、自分の家の屋根を念入りにながめましたが、やはりその声の主の影も姿も見えません。
 そして前夜のやうに美しい月夜で、とほくの沖合には烏賊釣の燈がならびきれいな金色の尾をひいた箒星がひとつ、茂作の家の空に、きらきらと光つてゐるばかりでした。
 その翌晩も、翌晩も夜になると茂作の家の屋根のうへで、続けさまに、大きな大きな嚏がきこえましたがその声の主は見えませんでした。
『なんといふ不思議なことだ』
 茂作は少々うす気味が悪るくなつてきました。

    二
 しかし大胆な男でしたから、どうかしてこの不思議な嚏の主をみつけてやらうと考へましたので四日目の晩から屋根の上に布団をしいて、徹宵《よどほし》張り番をしながら寝ることにきめました。
 ちやうど七日目の夜のことでした。
 茂作が屋根の上の寝床でとろりと、まどろんだと思ふころ、ふいに頭の上で、つづけさまに嚏をする者がありました。けふこそは
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