、茂作を憎まない者がありませんでした。
 茂作は、それほど怠け者で、あばれ者でありました。
 或る日、茂作は村の人達が漁にでかけてゐるのに、自分は家の中で、寝床から半身を乗り出して、いかにもなまけ者らしい顔をしながらおいしさうに長いきせる[#「きせる」に傍点]でのんきに煙草を吸つてをりました。
 すると不意に、茂作の家の屋根のあたりでそれは/\大きな声で、つづけさまに、二つ三つ嚏《くさめ》をするものがありました。
 茂作はあまりだしぬけでありましたのでびつくりいたしました。
『これは大変だ』
 かう言つて茂作は、むつくりと飛び起きて戸外にでてみました。それは茂作は、きつと風邪をひいた泥棒が、屋根の上に忍んでゐると思つたからでありました。
 しかし屋根の上には、嚏の主はをりませんでした。あたりをぐるぐると見廻しましたが、静かな寝しづまつた夜でありました。
 それは美しい月夜でありました。とほくの沖合には、ずらりと列をつくつた、烏賊釣舟の燈《ひ》が、ちやうど電気玉をならべたやうにみえ、そして、茂作の屋根の上のあたりの空には、きれいな金色の尾をひいた箒星《はうきぼし》がひとつ、きらきらと光つ
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