のだ、純金の王冠をかむり黄金《こがね》づくりの太刀を佩《は》き、白い毛の馬に跨り、何千人もの兵士を指揮して見たいものだな、しかし私には、この国の王様のやうに、白い立派な長い髭がないぞ、よしよしその時は夜店で買つてきてやらう。』こんなありさまですから一日かかつても、やつと一畦《ひとうね》くらゐよりできませんでした。
その夜近年にない大暴風で、トムさんの家の屋根は、いまにも吹き飛ばされさうな、激しさでした。
トムさんはあまりの物凄さに、炉の焚火によつて、小さくふるへて居りました、するとこの激しい暴風雨の中にトントンと表戸を叩くものがありました、トムさんは不審に思ひながら、そつと戸を開きますと、雨風といつしよに一人の若い女が室《へや》の中に転げこみました。
女は白い羽で出来た長いマントを着た、それは美しいひとでした、女は南の国のある王のお姫さまで、たくさんの家来をつれて旅行をいたしましたが、丁度この土地へきかかつた時、暴風雨に襲はれて、家来とちりぢりになつてしまつたのですと、トムさんに語りました。
その翌日、すつかり暴風雨が収まつたのですが、お姫さまは出発しようとはしません、その翌日
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