て、畠の親芋を掘りだしてしまふ、すると世界中の芋の葉がみな赤く枯れてしまふ。わたしはこの功労によつて、世界の王となる、トムさんはこんな具合に、つぎからつぎと、いろいろな空想を描くのでした。
 そのときトムさんの頭の上の青空を一群の白鳥が、南の湖の方へとんで行きました。
 トムさんはこれをみつけて、『やあ綺麗な白鳥達だな……あの太つたのが白鳥の王様だな。すらつとひときは首の長いのが王妃さまだな、まんなかの一番色の白いのがお姫さまだな、あーあもう私のところには、お嫁さんが来ないかしら、もし来られるなら、あの白鳥のお姫さまでも我慢をするがなあ。然し私の家は年中焚火ばかりしてゐるから、あの雪のやうに白い、白鳥のお嫁さんのお衣装が、汚なく煤けては可哀さうだな。』こんなことを考へて居りますと一羽の鳥[#底本の「烏」を変更]が『トムさんの馬鹿。』と吐鳴《どな》つて、トムさんのつい鼻先へ石ころを、落したので吃驚《びつくり》して、思ひ出したやうに、またひと鍬土を耕しました。
 トムさんは今度は、森蔭の白い王城をながめました。
『私は一生のうちに、たつた一日で良いから、あの王城に暮らす身分になつて見たいも
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