ゝで一度も見たことのないやうな、奇妙なかたちのものでした。
 青いきら/\と光つた服《きもの》をきて、絶えずからだをゆすぶりながら歩るきます。その不思議なものは沼岸のところまでやつてきて、ぴんと頭をあげながらなれ/\しく、
『淡桃色《うすもゝいろ》のリボンをつけたお嬢さんよ、なんといふ、美しい声をおもちでせう。水の中にすんでゐる鶯のやうだ。』
 かう魚に言葉をかけました。
 魚はあまり不思議な姿をしてゐるものですから、
『貴方は、水の魚、それとも陸《をか》の魚、青い小父さんはなあに。』
 とたづねました。
『青い小父さんは、水の魚だよ、あまり退屈なものだから、かうして土の上を散歩をしてゐるのさ、』と青い小父さんは答へました。
 魚はびつくりしてしまひました。それは水に住む魚が、陸《をか》の上を散歩をするなどゝは、いまがいまゝで知らなかつたからです。
『水の魚が土の上を歩るかれるのかしら。』
 魚はあまり不審なものですから、つい独語《ひとりごと》のやうに言ひました。
『そりや、いくらでも土の上を歩るけるさ、水の中を歩るくやうな、楽なことはないがね、それでも柔らかい青草の寝床もあつたり、ま
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