姉さんの魚はきまつて何時《いつ》も、水面に浮んでまゐりました。
そしてこの金色《こんじき》のさゞ波にくるまつて、それは上手に踊るのでした。すると夕暮れの風は、急にはしやぎ出しますし、沼の周囲《まはり》の草木もさかんに拍手をいたします。
この姉娘の一家はむろんのこと、沼中の魚がみな、水底で夕飯がすむと、水面にうかんできてこの娘さんの、上手なダンスをながめるのでした。
姉娘は、きれいな金色の波にくるまつて、すい/\と水面に、できるだけたかく跳びあがりました。親達はまたたいへん姉娘の踊り上手をじまんにして居りました。
いちばん末の妹娘の魚は内気な性分でしたから、あまりダンスなどを好みませんでした。それでたつたひとりぼつちに、水のつめたいゆるやかな水底の砂地に坐つて、水草で赤と青のショールをあんだり、細かな七色の石をあつめて首飾りをつくつたり、ときどき誰もゐない水面にうかんで、小さな声で歌を唄つたりして遊ぶことが好きでした。
或る日妹娘が、いつものやうに、水面に小さな可愛らしい口を、ぽつかりと出して独唱をやつて居りますと、ふいに沼岸の草原にがさ/\と音がしました。
それは妹娘のいま
前へ
次へ
全137ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング