こといふあてもなくさまよひ歩るきました。
 それから幾日かたつて、魚は岸にうちあげられました、そして白い砂がからだの上に、重たく沢山しだいにかさなり、やがて魚の骨は砂の中に埋《うづ》もれてしまひました。
 さいしよは魚は頭上に波の響きを聴くことができましたが、砂はだんだんと重なり、やがてそのなつかしい波の音も、聴くことができなくなりました。(大13・8愛国婦人)

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青い小父さんと魚《うを》

 あたゝかい南の国の、きれいに水が澄んだ沼の、静かな岩かげの深みに、黄色い上着に黒い棒縞のチョッキを着た、小さな魚の一族が暮らしてゐました。
 なかでいちばん赤いズボンをはいたのが父親で、母親は赤い肩掛をしてゐました。
 娘たちは淡桃色《うすもゝもいろ》のひだ飾りのついた、それは大きなリボンを結んで居りました。
 いちばんの姉《あね》さんの魚は、たいへん活溌で、ことにダンスがそれは上手でした。
 夕暮れになつて、お日さまはだん/\と森陰に沈みかけます。そして、
『沼の愛らしい魚達よ、左様なら。』
 とはるかな夕焼けの空から、金色のあいさつを沼の水面に投げかけるころ。
 
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