の含んだ頃です、その時だけは、小母さんは晴ればれとした顔をして、花園の中を歩るき廻ります。
『わたしの皮膚の匂ひを、かいでごらんよ、唖娘、なんといゝ匂ひだらうね。なんの花の匂ひをするか言つてごらんよ。』かう言つて小母さんは、唖娘の鼻さきに、自分の痩せた顔をつきだしました。
 こんなときには、おばさんの一日のうちで、いちばん機嫌のよいときですから唖娘は、小母さんの機嫌に逆はぬやうに、だまつて薔薇の花を指さします。小母さんは、さも満足のやうに、にこにこいたします、しかし、ほんとうは小母さんの顔はまつくろで、ざらざらと小さな棘の生えてゐるやうに、皮膚が醜く荒れてをりましたし、それに念入りに、こて/\と薔薇の花粉《はなこ》で拵らへた白粉を、まだらに塗つてをりました。
 小母さんは、この花粉の白粉で、額の溝のやうに深い、たくさんの皺をかくしてをりましたので、ほんとうの小母さんのとしが何歳《いくつ》であるか、唖娘は知りませんでした。

    三
 しかし小母さんの機嫌のよいのも、ほんのちよいとの間でした。午後になつて、薔薇の花の露もとけてしまひ、お日さまがぎら/\と照る頃になると、だん/\と小母
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