ました。
 唖娘には、お父さんもお母さんもありませんでした。
 そしてこの憐れな孤児の唖娘は、見も知らぬ不思議な小母さんに養はれてゐました。
 それが何時《いつ》の頃から、小母さんの処に来てゐるのか、自分でも知つてゐないほど、小さな時のことでした。
 小母さんは、それは/\広々とした花園《くわゑん》を持つてゐて、そこには薔薇の花をたくさん植ゑてゐました。
 唖娘はまい朝早く起きて、この花園の土に素足になつて、手には重たい如露《ぢよろ》をさげて、薔薇の間を縫ひながら、花に水をやるのが仕事でした。
 その仕事は、けつして辛い仕事だとは思ひませんでしたが、小母さんは、たいへん邪険な人でしたから、唖娘がささいなあやまちをしても、薔薇の棘のある細い鞭を、ぴゆう/\と風のやうに鳴らして、肩のあたりを激しく打ちました。
 唖娘は、これをたいへん悲しく思ひました。小母さんは、黄色い長い上着をぞろ/\と、地面にひきずりながら恐ろしいとがつた眼をして、唖娘の後に尾《つ》ついてきながら、それはやかましく指図をしたり、小言をいつたり、いたしました。
 小母さんのいちばん機嫌のよいのは薔薇の花に、しつとりと朝露
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