それから怖ろしいことが起つた
子供と亭主を捨てゝしまつたことだ
結局あなたは
階級闘争は知つてゐても
男の心を知らなかつたのさ
後悔の月はのぼつてゐるが
雲の乗物が迎へにやつてこない
真夜中の目覚めに
貴女の鼻水は
多少はすすられたにちがひない
しかし涎と鼻水とで
つなげる愛は
新婚三ヶ月位の間だけだらう
貴女がオムツの数を
千枚もとりかへて育てた子供は
今年中学の試験を受けた筈だ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◆雑纂・補遺詩篇
散文詩 雪のなかの教会堂
ながい時間の寒さの辛棒もほんの僅なしげきで眼をさましもう堪えられなくなつた冷たさです私はどんどんと馬橇の中で足ぶみをして足の裏に暖気のたんじようを待ちました、だがなかなか強情な冷気でつむじ曲がりの寒暖計のやうに水銀の玉は容易に動かうとはしないのでした。馬橇はあかるい舞台照明の青さの中をそれは静かにひつそりと走つてゐるのです、たくさんの電信柱の退却または都市建築物のすべてが幾何学派の絵画のやうに渦巻波の雪の道路はうねうねとうす緑の輪廓線に馳けてゆくのです。
それからこの私の乗り物はだいぶ走つたやうです、黒い幌
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