は遊星のやうに
軌道をまはる
円滑な演技をもつてゐる
彼に玉子を撫でさしたら
きつと上手に
ツルリと撫でるだらう
左様に彼は主役に取りまく
脇役としてのうまさがある
わたしはファウストで
(滝沢)の弟子になつた
(三島)の哲学学生の印象が濃い
若い癖に年寄のやうな
シャガレ声を出しさへしなければ
人間の世界にあつても――
蛙の世界にあつても――
名優だらう。


細川ちか子論

舞台装置の階段を
彼女は、コリントゲームの玉のやうに
上つたり、下つたりしてゐる、
彼女の白いスカートは
舞台一面ナメまはす、
彼女が舞台を走りまはるとき
観客は彼女の自信で
掃き出されさうだ、
俳優の自信――、
おゝ、それは総べての俳優諸君が
彼女のやうに持たねばなるまい、
張り子の小道具を
いかにも重さうに
貫禄をもたして持ち運ぶ彼女の演技は
ちよつと完璧なものがある、
つまり結論としては
彼女の芝居は
――そそつかしいが、円滑だ。


小沢栄論

アレキセイ・ヴロンスキイ様は
アンナ・カレーニナ様を
ひしと掻き抱く
小沢栄の熱演主義はいい
はひまわるときは
雑巾をかけるやうに
倒れるときは骨も砕けよと――
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