扉をひらいて戸外にでた、
古ぼけた痲痺を追つてゐる
多数の人々の姿を
俺はぼんやりと瞳孔の中に映しだした
夢去りぬ――、俺は蚊の鳴くやうな
小さな声で人々にむかつて呟やいた。
青年歌
青年よ。
屈托のない高いびき
深い眠り――、
眠りの間にも
休息の間にも
生長する君の肉体、
強く思索することを
訓練してゐる学生。
行為はいつも
これらの強い意志の上に立つ
真実に対して
敏感な心は
青年の中だけ
滅びていない。
青春以外のものは
すべて灰色だ。
刺身
海の中を大鯛が泳いでおりました
悠々と平和に
すると遠くでキラリと何かが走りました
大鯛は「シマッタ」悪い奴に
逢つてしまつたわいと
逃げようとしました
向うから泳いできたのは
刺身庖刀でした
庖刀はピタリと正眼に
刃の先を大鯛の鼻にくつつけて
大鯛と刺身庖刀とは
ながい間睨めつこをしてをりました
ハッと思ふ間に
刺身庖刀は大鯛の
左り片身をそいでしまひました
大鯛はびつくりして命からがら逃げました
刺身庖刀は意気揚々と
大鯛の半身をひつさげて泳いでゐました
そこへ鮪が泳いできました
鮪は図体の大きな割に臆病者で
刺身庖刀の
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