花嫁を送る
惨酷な犯人の一人に加担して
得々として犯跡をくらますために
自分で犯人になつたり弁護士になる自由を
書いてゐる文章の中で見事にやつてのける
おゝお前、砂のまじつたトコロテンのやうな
味もそつけもない散文をつきだすものよ。


大弓場の詩

的は少なく
矢数は多く
あたる筈だが当らない
心のくるひ
手足のくるひ
ねらつてうてば
はずれるばかり
心も空に
あらぬことをば考へて
ヒョウと放せば
みごとに金的
あゝ、人生は
とかく皮肉な弓の的


小松の新芽
  ――北海道に帰つて――

私はふるさとに帰つて
手痛いほどに自然の愛を
心と体とに受けとつた
人間を底知れぬほど収容する
大きな青い墓穴と呼んで
ふさはしいやうなきれいな空を見あげながら
十年ぶりで始めて私の感情を
しまつてをくことの出来さうな
空の抽出しがあることに気がついた
また私の都会生活でいたんだ心のまはりを
ガーゼのやうな白い雲が飛んだ
ニレの樹にもたれながらしばらく考へた
この辺りでは自然からも人間からも
伐り出すことのできるものが残つてゐさうだ
私はそれを新芽も青く柔らかく
行列をつくつて生へてゐる
小松の群
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