主義を復活させる
自分で脇の下をくすぐつて
一人で猿のやうに
日本主義を騒いでゐる
腹の空かない連中だけが
日本精神といふ茶碗を論じてゐる
飯の必要なものにとつては
容器は問題ではない、
諸君も日本的とは何か――と
疑ふほど非国民であつてはいけない、
日本の土の上でオギァと鳴いたものは
みんな日本的だ――。
一九三八年
坊主の頭の上を
はだしで歩くやうな
気持の悪い日がつづくのだらう、
街には白い光沢のある布に
黒い太い文字を書いた旗がならび
情熱をさらけだして
誠意をもつて汽車の窓を追ふ群
叫びはつゞき酔の中で国家を思ふ、
もし私が肺が悪いのでなければ
一九三八年度はどんなに
すべての出来事を
片つ端から呼吸しつくす
ズックの袋のやうな大きな肺をもちだすのに
いまはそれができない
連続的な叫びは
いつ絶えるとも知れない
出来事のために
底の知れない情熱を
人々に割り当てる
心の病人にとつても肉体の患者にとつても
喧騒によつて全く安静は破られて
脅迫的な泥酔漢の
音頭取りに従はねばならない
ほこりをまひ立てて街をゆくものは
鉄の車と褐色の箱車
すべての民衆は黙々として
坊主の頭を
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