民であると
いはれることを怖ろしがつて泣きだした、
その泣き方の中でソロバンを弾く、
どれだけ泣きすぎて、
どれだけお釣りが自分の手元に残るか、
彼はちやんと知つてゐるのだ、
片眼だけ泣いて
片眼はじつと父親の顔色をうかがつてゐる
日本精神を強調する点では
彼の父親は彼を叱らないことを
狡猾な子供はよく知つてゐる、
言ひ過ぎたとき、たしなめてくれる
良い父親をもつてゐる、
さあ、日本精神を勉強なさい、
ピアノは買ふことができた
でもいまは歌を弾くどころか
ピアノを調律する方が忙がしい、
日本精神のドレミファから始めて
この深い洞穴から
どんなに進歩的な良い音が出るか聴きたいものだ、
青年達は古い日本の夢さへ
見る力を失つた
新しい現実主義者になつた
彼等だけが白髪を殖やすために
古い日本の夢を見ようとする
万葉精神は遠いといふよりも
カユイところにある、
明治精神は近いといふよりも
痛いところだ、
そして現代は、カユクテ痛くて
くすぐつたくて何とも言へない、
いまさら万葉時代や、明治時代へまで
現代の精神に水を割りに
出かける必要もない、
現実の痛さを知らぬものだけが
理由を附して復古
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