くりかへされた
見聞はひろまつた
夜がやつてきた
売娼婦が私を抱へた
おゝ、祖国の運命よ、いつまでも
気狂ひじみないでくれ
新聞売子の鈴の前で
私を飛びあがらさないでくれ
のべつにさう熱いアスファルトを
舗道に流さないでくれ
私の心の底はあつても
靴の底はないのだから
私の父と、私の母と、私の祖国のために
私は祈らう、十字を切らう
私の運命はしづかに糸を
くるやうにほどけてゐる
愛する人が一方でそれを巻いてゐる
祖国よ、お前の糸も動いてゐる
誰が巻いてゐるのか
フランスかドイツか
オーストラリヤか
それは悲しいことだ
祖国よ、かつてお前が土の上に
うみおとしたお前の子である
私に巻かしてくれ
私はいま心から
親切に酬いようと思ふ
それは決してお前の糸を
まつ白のまゝではおかないだらう
私はほんとうに美しく彩つてあげようから。


日本的精神

今更 日本的精神とは何か――、と
僕は疑ふほど、非国民ではない、
常識的な議論のテーマを持ちだして
彼等は日本人を強調する、
少くとも議論に加はつてゐない人が
非国民であるかのやうに――、
狡猾な無邪気さで、
この可哀さうな子供は
一番真先に非国
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