死の歌うたひだ、
僕は勝つたのさ、
勝負を誰よりも愛したからだ、
なんて楽しい、フリュートのやうに
悪態を吐く、お株は私のものだ、
なんて嬉しい、サキソホーンのやうに
吹いては唾を吐き、吹いては唾を吐く、
毒舌のオーケストラよ。
地球は裏返しになつても
私は歌ひやめないであらう、
私の心に悔いはないが
時にひと知れず泣いてゐないか?
それは皆様の御想像にまかす、
ただ私を歌に駆りたてるものを
私が知つてゐる間は私は悔いない。
糸繰りの歌
たまらなく私の胸を親切に掻きたてゝくれる
私の祖国日本よ
これ以上私はお前に
親切にしてもらふことは堪へられない
もし私の母親のお腹が
五人の兄弟を一度に生んだのなら
一人を日本へ
一人をフランスへ
一人をスペインへ
一人を支那へ
一人をロシヤへ
みんな離れ離れに旅立つてしまつたであらう
でも幸ひなことに私は一人息子であつた
私の日本は私を優しく
横向けに、ときには
さかさまに抱いてくれる
そして私は無事に大人になつた
貧乏をする自由も
女に恋することも覚えた
留置場の見学団にも加はれば
鞭でうたれると私の尻が
鶯のやうに鳴くことも発見した
暁は
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