今更悪態とは酷いぞ
右手
御主人にカワウソの
毛皮でも買つて貰つて
お前の小市民根性を暖めて貰へ
右手と左手
掴み合つて喧嘩を始める
口
両手共喧嘩をやめい、
きこえんのか
時計が十二時を打つた。飯だ
左手
みろ、右手俺れが今度は
重い茶碗をもつて
貴様が軽い箸もつ番ぢやな
右手
そりやさうだな
働く者同志の喧嘩はやめよう
右手と左手
それにしても
こいつの口にせつせと
兵糧を運ぶわけか
口から尻の世話まで
俺達働く者の手にかかるのを
口の野郎も尻の野郎も
脳の野郎も
すべての命令者共は
忘れるな
或る旦那の生活
一人の政治家がをりました。
靴をはくにも
自分の手をかけたことがない、
椅子に腰かけ
ぬつと足をつきだすと
女中が履かしてくれる
赤い絨氈は座敷から
玄関先までつゞいてゐるから
靴には塵ひとつつけず
そのまゝ旦那さまの足は
自家用の自動車の中へ。
葉巻をくはへれば
傍の秘書がマッチをつけてくれる
車が停まれば
ドアは運転手があけてくれる
旦那さまは手も足もいらない
イザリであつても政務には
結構こと
前へ
次へ
全75ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング