高い音がして開いた
その響きは
池の面に咲いてゐる蓮が
いま暁の瞬間に
生命の花ひらく感動の声か――、
あるひは娘が
処女性を失ふ瞬間に
軽い驚きを、ともなつた
感動の声のそのやうにか――、
ひとつの物体が、
充実したつぼみの世界から更に
大きな開花の
次の充実の世界へ移つてゆく
その瞬間に、
自然に発する声か――、
それとも抵抗する蓮の花弁を
百姓の力をもつて中から
強く押し開いた掛声であつたか――、
いや、いや、
花びらに自由自在
開き且つ閉ぢることのできたのは、
人工的なカラクリの
蓮の声であり、
仏の声である、
生きた蓮の花開く声ではない、
生きた百姓の声ではない、
――無智、と叫んで
己れを罵つた
百姓の苦悶の最後の二言は
僧侶の騒音、
寺院のあらゆる整頓された儀式の
形式に打ち消され
 彼はただ蓮の中で己れの口から発し
 それを己れ
 の耳に聴いたにすぎない


雪の伝説を探るには

登山道具はなるべく御持参下さい
こちらの製品は粗製濫造に属し
玩具に属してゐますから、
日本に犯されないものは一つもない、
勿論雪の処女峰などは一つもない、
山番を唖然とさせるほど
勇敢に遭難
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