主人の運命が
行詰りにつく[#「く」に「ママ」の注記]なんだ。
[#ここで字下げ終わり]

小熊(3)[#「(3)」は縦中横][#「(3)[#「(3)」は縦中横]」はママ]資本の取引のやうに
[#ここから3字下げ]
手軽にぶべつ的に
我々の思想は彼等に受け渡されない
文学への賞金とは
いつたい何なのか?
たたかひの文学に
生命をかけて賞金をもらふとは
あまりに騎士は
馬のうへでふざけすぎる
民衆を馬券買ひの
心理に迎をやるやうに
文芸賞へ文士と民衆の関心を向けるか
あいつ恍[#「恍」に「ママ」の注記]かつな奴、
[#ここで字下げ終わり]

雷(3)[#「(3)」は縦中横] 今、大きかつた者に[#「に」に「ママ」の注記]
[#ここから3字下げ]
だん/\小さくなつて来る
老いぼれた支那には
孔子が却[#「却」に「ママ」の注記]つて
二千余年を経た墓穴から
起されて引つ張は[#「は」に「ママ」の注記]れて
とぼ/\と出て来るんだ
そして香檳酒《シァンビンジュ》を飲んで
見せびらかして
廻りに[#「に」に「ママ」の注記]歩いてゐる
しかもどの学校へも這入る
学生様につづ[#「づ」に「ママ」の注記]ましく向つて
礼儀・道徳・忠孝……を教へて
国を救へば書経を読むべきを講ずる
居眠りに[#「に」に「ママ」の注記]する学生らの眼を
打ちひろげんとするのか
或ひはマルクスを逐ひ出さうとするのか
臭い屁を放ちつつ。
[#ここで字下げ終わり]

小熊(4)[#「(4)」は縦中横]君よ、君は支那の睡眠性脳膜炎を歌ふさ、
[#ここから3字下げ]
君のところの学生は
失ふべきものの中にあつて
過[#「過」に「ママ」の注記]速度的に失つてゐる
あらゆる古代支那の思想も文化も、
それは悲しむどころか爆竹ものだ、
そして月といりかはりに
太陽がのぼつてくるさ、
新しい支那は
世界的規模をもつた思想の卵を抱いてゐる
そして孵化してゐるのだ、
[#ここで字下げ終わり]

雷(5)[#「(5)」は縦中横] 君よ駿馬の持主
[#ここから3字下げ]
私に活力をつけて
生命の発揮[#「揮」に「ママ」の注記]油を注ぐ
君は若し
かなた大陸に
駈け廻つたら
そこの空に
聳え上がる山山の峰が
顫へて崩れら[#「ら」に「ママ」の注記]れるかも知れん
いや、しめやかな詩壇の沙漠に
夏の雷を呼び起すだらう、
だが今我々は[#「は」に「ママ」の注記]
迫[#「迫」に「ママ」の注記]切に期待してゐるのは
まづ、早く、二つ民族の
プロ詩人の固い握手をすることだ!
[#ここで字下げ終わり]

小熊(6)[#「(6)」は縦中横]支那の詩人よ
[#ここから3字下げ]
君の日本語はロレツが廻らない
だが君はこんなに文字の上では
立派に真理を語り終せてゐる、
日本でもゼイタクな詩人は
文字を引き廻すことにかけては
天才だが、
さつぱり人間の真実を語つてゐない、
風がもつてくるウナリに耳傾けて
少しは嵐の気配を知つてもよいのに
彼等は焼けたフライパンの上で
徒にとびはねる油のやうに
身の置きどころないよと
騒ぎまはつてゐるだけだ、
皮肉に冷静に歌はう
支那と日本のプロ詩人よ、
[#ここで字下げ終わり]

雷(7)[#「(7)」は縦中横] 青緑の野原
[#ここから3字下げ]
静かな川
茫茫な海
大自然よ、
お前は原始の平和へ
くり返すことも出来るか
やかましい恐怖の騒音
一本の草さへも怖気がする、
又歴史の新段階への前夜に
空前的[#「的」に「ママ」の注記]激しい突変
処々に伝へてる
爆発のシグナルを、
我々も具体的
正確的に準備しなければならん、
歴史に背負はされる
重大な役割を。
[#ここで字下げ終わり]

小熊(8)[#「(8)」は縦中横]反逆的な夜明け前の
[#ここから3字下げ]
ただならぬ陣痛は
巣の中からきこえてくる、
雌鶏よ
われらが蹠をもつて
歴史を押へよ、
羽毛をまきちらして
いま何を激しく
雌鶏たちは身ぶるひしてゐるか、
この瞬間のために
鶏舎の中の鶏共は
みな汗を掻いて
合唱《コーラス》してゐる
新しい苦痛よ、
お前は生れた、
[#ここで字下げ終わり]

雷(9)[#「(9)」は縦中横] 私は涙の流れを忘れた
[#ここから3字下げ]
腹の飢えを忘れた
喜びも、悲しみも
恐れも、又死ぬことも。
まるで、山山への狩猟者のやうに
発現[#「現」に「ママ」の注記]されぬ処への探険者のやうに
又戦場への[#「の」に「ママ」の注記]出発してゐる兵士のやうに。
私は自信をもつて
自分の勇気と毅力を加へる
最後の目的を到達しようと、
出来なくても
新らしい時への奉仕を
尽くさねばならん。
[#ここで字下げ終わり]

小熊(10)[#「(10)」は縦中横]人々の生活の茫然へ
[#ここから3字下
前へ 次へ
全19ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング