はだしで渡りあるくやうな
不快な危なつかしさで街をゆく
おゝ、お前一九三八年よ
意地の悪いコヨミの早さで
もう二三枚でお前も忙がしく去つてゆくのか、
もうお前とも逢ふことができない
悲劇で満たされたお前は
ふたたび次の歳に悲劇を渡すか
それとも喜劇を渡すか
私はそれがせめてもの想像の喜びだ
情死
真実を最後のところまで押してゆかう
海の上の高い崖際まで
下ではどうどうと波が岩をうつてゐる
そこから下をみおろして泣かう、
女よ、
真実よ、
お前を先に突落して
逃げかへるやうな
私は薄情な男ではない
人生とは
その日、その日の、
情死の連続のやうなものさ、
あの男は生活と抱きあつてゐるし、
あそこでは芸術と抱きあつてゐる、
こつちでは味方と抱きあつてゐれば
あつちでは敵と組みあつてゐる、
私はプロレタリアに心から惚れた
どこまでもお前と抱きあつて離れない。
寸感
笑へ 女よ
お腹の中の打楽器をうち鳴らせ
若き日の楽譜は
ケラケラと歌ふ
若き日のお腹の中の打楽器は
やがてオギャ、オギャと
鳴るであらう
学生の頭の問題
――ちかごろの学生は頭が悪いとか、
――髪が長すぎる刈つてしまへとか、
昔から学生の頭は
為政者の問題の中心になる、
それほど学生の頭は政治に尊重されてゐる
ふたこと目には、学生の頭、頭だ
しかし学生の頭を論ずる者があつても
学生の靴下の穴を論ずる者はゐない、
まず政策の手始めはいつも学生層から
それから漸次、国民の総員に及ぶ、
命令により、髪を斬り、鼻毛をぬきとり
マツゲを焼いた国民が生れさうだ
たゞし収税吏だけはザンギリでは
先方に子供扱ひされると
斬髪令から除外される
思想は頭の中に宿る露のことだ
青年の髪は若い木の苗だ
山の樹はいたづらに乱伐するなかれ
よろしく慎重たるべし。
朝の歌
この朝の瞬間の
新鮮な場所で
神よ たすけ給へ
ニコライ・インテリゲンチャ氏や
イワン・インテリゲンチャ氏が
大きな口をあけて
ロレツの廻らぬ苦しみの
夜通し吸つたメタン瓦斯を吐いてゐる
この清らかな朝を
汚れた智慧のアクビを連発し
定職もなく
労働もなく街にコーヒーを飲みにゆく
ぐうたらな生活を
神よ、ゆるし給へ、
無責任な言葉と
文字をもてあそぶこと
人後におちず
街の悪い溜りで
芸術と人生を論じて尽きず
ものうく手元に引きよせた
朝刊新聞に
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