、
我々の中で悪態を吐いて愛されてゐる
福徳家は君一人だ、
ところで誰も彼が生理学の
大家だといふことを知らない、
出版記念会の席上で片つ端から罵り
帰りの玄関先で罵つた相手の肩を
『やあ、やあ』といつて
大きな平手で叩く、
馭者が憤つてゐる馬の首筋を
ダア、ダアといつてたゝくと
馬は眼を細くして温和しくなつてしまふ
神経中枢に近い部分を
平手でうつことは
鎮魂帰心のいゝ方法
林にやつつけられて林に肩をたたかれて
気が静まつた相手幾人ぞ
林よ、論敵を馬扱ひにしたから
今度は罵つてをいてそ奴の
耳の下を掻いてやりたまへ
すると今度はゴロゴロと咽喉を鳴らすだらう。
武田麟太郎へ
おゝ、吾が友よ
高邁なる精神の見本そのものよ、
羽織の下に衣紋竿を
背負つてゐるだらう、
肩をいからし
『燕雀、何ぞ大鵬の志を
知らんや』
と呟きつゝ銀座を歩いてゐる
果して彼は
燕雀なりや、
大鵬なりや、
神さまだけがそれを知つてござらう。
泣いてゐる君の小説の素材よ。
君は全身的には政治が嫌ひだが
色眼だけは誰よりも美しい。
秋田雨雀へ
はげしい電光の入り乱れた
日本の解放運動の
どさくさまぎれに、
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