声に
寂寥、身に沁む
人里恋しく
この天狗深山からのこのこと
通俗小説の里へ下りた瞬間
凡俗の世界に負けて
痴愚となる
ふたたび山へ戻つて修業するか
雲へ乗つて海外へ飛ぶか
鰯で醤油をつくるのは
小説の中ではたやすからうが
通俗的で芸術的な小説の
新案特許《パテント》をとるには
なかなか難かしからうて。


谷崎潤一郎へ

人生の
クロスワード
人生の
迷路を綿々と語る
大谷崎の作品は
はばたく蛾
鉛を呑んだ蟇
重い、
重い、
寝転んで読むには
勿体ないし
本屋の立読みには
長過ぎるし
読者にとつては
手探りで読む
盲目物語だ
作者の肩の凝り方に
読者が御相伴《ごしやうばん》するのも
よからうが
書籍代《ほんだい》より
按摩賃《あんまちん》が高くつきさうだ
先生の御作は
そやさかいに
ほんまに
しんどいわ。


新居格へ

ビア樽のおぢさんは
コオヒイが好き
ジャズが好き
ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、
ジャアナリズムがお好き
私は貴方の
真面目なやうで
不真面目極まるところが好きよ
豆、豆、豆、豆、
いつも豆で達者で
働き者よ
おぢさんは
ニヒリズムと
アナキズムと
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