林芙美子へ

有名なる貴女の人格に
触れることをおゆるし下さい。
私も多少の人格をもつてゐる、
そしてそのいくらもない人格を賭けて
あなたのことを歌ふのだから、
あなたの芸術上の呑んだくれの
性格は出版記念会の
余興の上には一層それが発揮される
主賓としての貴女は洋食皿をもつて
泥鰌すくひを踊りまはる
それは良いことです
来賓を喜ばすことは
だがもしあなたが踊りのために
くるりと尻を捲つた
長襦袢が
余興のために前もつて着込んで
きたものであつたとしたら惨めです
あゝ、なんて細心な一見苦労人らしい、
事実はレビューガールの媚を想ひ起させる、
あなたは少し苦労をしすぎましたね、
前もつて、たくらんだ計画した
感傷性の売文家よ
だが、再び貴女に九尺二間の長屋に住めとは言はない
人生への追従をうち切つて下さい
面白がつてゐる読者に面白がらしてはいけない
世界の中にたゞ一人
私だけが面白くない貴女を期待してゐる
不機嫌な反逆的な貴女を待つてゐる。


横光利一へ

利一天狗は、
烏天狗、小天狗を引具し
昼なほ暗い純粋芸術の林に
エイ、ヤッ、トウ、と
枝から枝へ飛びかひ修業す、
暗夜、ふくろの
前へ 次へ
全32ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング