こゝな口幅つたい弱輩愚考仕るには
先生には訪問者を
玄関先まで送り出し
ペタリ坐つて三つ指ついて
面喰はせる態の
怖ろしく読者を恐縮させる
『慇懃文学』の一種である。
室生犀星へ
現実に
これほど
難癖をつけて
これほど
文句をつけ
これほど
しなだれかゝつて
これほど次々と作品を
口説き落せば達者なものだ、
あなたは
果して神か女か、
神であれば
荒びて疲れた神であり
女であれば
暗夜、頭に蝋燭をともして
釘をうつ魔女だ
しかし藁人形は悲鳴をあげない
呪はれる相手も居まい、
小説に苦しむたびに
幾度、
庭を築いては崩し
幾度、
石を買つては
売り飛ばし
老後の庭園を
掘つくりかへして
楽しんでゐるのは
御意の儘だ
それは貴方の庭だから。
正宗白鳥へ
右といへば
左といふ
山といへば
川といふ
行かうといへば
帰るといふ
御老体は天邪鬼《あまのじやく》
人生をかう
ヒネクレるまでには
相当修業を積んだことでせう、
歳月があなたの心を
冷え症にしてしまつたのか
痛ましいことです
あなたの正気からは
真実がきけさうもない
ちよいと
旦那
酔はして聞きたい
ことがあるわよ。
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