うに人生に触れる
せいぜい温《ぬるま》湯の中で歌ひ給へ
彼にとつて詩とは不快感を宣伝する道具だ。
北条民雄[#「北条民雄」はゴチック]よ、
病気があるために人生に死があるのぢやない、
満足な皮膚をしてゐて
心の腐つてゐる癩患者のことも書く気はないか。
いま僕は墓標を建てた
名前の羅列をもつて――、
散文をもつて掩はれてゐる日本の空は
根性の悪い発疹だらけの
犬の皮膚のやうに汚ない
君等の皮膚を掻いてやる親切さに
君等がこれを厚意として受取る方法は
だまつて、文句なしに
僕といふ諷刺詩人に悪口をいはれることだ。


文壇諸公に贈る新春賀詩
    ――謹賀新年一月元旦――

中河与一について

君の意見は全部正しい、
もし、反対するものがなければだ、
人生がすべて偶然でできてゐるといふ
君の主張の粘り強さは
とうとう本屋から『偶然と文学』を出させて
印税を捲きあげるところまで成功した、
さて民衆が偶然的に君の本を買ふか
それとも必然的に誰も買はないかによつて、
君は自分の主張の正しさ誤まりを
君の財布の中に入る金で
知ることができるだらう。
民衆の貧乏を偶然的であればだとすると
僕が君の
前へ 次へ
全32ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング