な法螺の貝から
鳴らすだけで礼拝される修験者志賀直哉[#「志賀直哉」はゴチック]
曾て文学の瀧に打たれた
経験をしやべることがお楽しみ。
随筆の王者のやうに人々を感心させてゐる
内田百間[#「内田百間」はゴチック]、君の文章が
人々をひきつける手品
君が押韻家だといふことに誰も気がつかない。
保田与重郎[#「保田与重郎」はゴチック]は跳ねる仔馬、可愛い哲学者、
君にとつては、もて遊ぶに手頃な哲学
法隆寺の屋根の上の烏は
君よりももつと思索的な糞をする。
わが愛するレコード係林房雄[#「林房雄」はゴチック]よ、
政府に関心をもつてゐる唯一の文学者
折々針を取り替へることを忘れて古い歌を繰返す記憶の友、忘れることを決してさせない。
村山知義[#「村山知義」はゴチック]はエネルギッシュな千手観音
右手に小説、左手に戯曲
さらに君は映画にまで接吻した
接吻の責任は君が負へ。
怒号のあとの寂寥を味ひながら
地方主義の旗の下に平田小六[#「平田小六」はゴチック]は
インタアナショナルを憎んでゐる。
何処にでも着陸するヱーロプレイン
うち出されて飛ぶ青野季吉[#「青野季吉」はゴチック]はカタバルト
ジャアナリズムは彼の良き航空母艦。
作家よ、僕という諷刺詩人を
文壇に住まはせてをくな、
復讐鬼を抱いて寝てゐるやうなものだ、
黙殺を唯一の武器とするものも
また僕に可愛がられる
膏薬だらけの尻には太い注射を
徒党の頭からは、煮湯と火をつけたガソリン瓶を
彼女達にとつても僕は
数千里も長い鼻の下の用意がある
心から怒ることができない
不幸な女、神近市子[#「神近市子」はゴチック]よ
僕が幾度眼をこすつてみても君は優しい。
山本有三[#「山本有三」はゴチック]、自由主義の門番
あなたの良心に一応会釈をして通るだけだ。
病気のヒロイズムが文学を書かせるとき
森山啓[#「森山啓」はゴチック]を、地球の滅亡の不安が捉へる
君はもつと君の体温計に相談して
ものを書く必要がある。
ダブルベッドで一人で寝てゐる
処女、長谷川如是閑[#「長谷川如是閑」はゴチック]
二つの枕を一人で占領してゐる
右の枕でも、左の枕でも気儘に使ふ。
精々凝つた言葉をひねり出すために
りきんでゐる北川冬彦[#「北川冬彦」はゴチック]は
ワキガのやうな鼻持のならない警句を吐く
僕は君が定型詩をつくるのを永遠に待つてゐる。
小説を書く天分より、若くて乾分を飼ふ
技倆を賞めよう武田麟太郎[#「武田麟太郎」はゴチック]
彼は這ひまはるリアリズムの子猫共を舐めてゐる。
女の羽ばたきの弱さを売文する林芙美子[#「林芙美子」はゴチック]。
神よ、彼女が世界中の男を知つてゐるやうな口吻をもらすことを封じ給へ。
平素は遠雷のやうな存在
思ひ出したやうに作品を堕す
谷崎潤一郎[#「谷崎潤一郎」はゴチック]は御神体のない拝殿のやうに大きい。
依然として布団の中の宇野浩二[#「宇野浩二」はゴチック]
立派な顔をもちながら
モミアゲの長さより顔を出さうとしない。
三等品の毒舌を吐く大宅壮一[#「大宅壮一」はゴチック]は涙の袋さ
つまるところは人情家さ
センチになるかはりに憤慨するだけさ
もつと悪人になる修業しろ。
詩魂衰へて警察歌をつくる北原白秋[#「北原白秋」はゴチック]
歌壇に盤踞《ばんきよ》して、後陣を張る
歌壇組みし易しと見えたり。
帰朝者を迎へるお定まりの三鞭酒は
ポンポン抜かれた
佐藤俊子[#「佐藤俊子」はゴチック]よ、アメリカで育てた
あなたのイデオロギーに栄《は》えあれ。
丸山薫[#「丸山薫」はゴチック]は、だらしのない詩の涎れを
遂に散文の皿でうけた。
政治家犬養健[#「犬養健」はゴチック]は片脚
文学の義足をつけて鳴らしてゐる。
高見順[#「高見順」はゴチック]は事件屋のやうに
人生から問題をさがす
彼の小説は読者をなだめるだけで精一杯。
理論家窪川鶴次郎[#「窪川鶴次郎」はゴチック]は彼女に手を出して
手を噛まれた――小説といふ彼女に
窪川稲子[#「窪川稲子」はゴチック]の嫉妬が小説を書かせるほど
彼女は利巧者で、小説家で
黒襟をはずしてアッパッパを着る
時代性も承知してゐる。
名誉な太宰治[#「太宰治」はゴチック]は
痲痺状態で小説を書くコツを悪用する。
大森義太郎[#「大森義太郎」はゴチック]、実に長いいゝ名前だ
痰切飴のやうにイデオロギーを
柔らかに融かしてくれる。
島木健作[#「島木健作」はゴチック]、君は癩小説のお株を
奪つたものと決闘したまへ
次々と君のお株を奪ふもののために
十二連発で撃ち給へ
しかし自分のために最後の一発を残すのを忘れるな。
正宗白鳥[#「正宗白鳥」はゴチック]は皮肉をいふことの楽しみも尽きさうだ。
旧名須井一、改メ加賀耿二[#「加賀耿二」はゴチック]

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