い姓名判断が彼の作品を下落さした。
文体をひねる職人、橋本英吉[#「橋本英吉」はゴチック]
現実よりも美しい小説を書く法などはない。
中条百合子[#「中条百合子」はゴチック]から闘士を見物しようとする
悪い奴が少なくない
精々人情に混線した貴女は美しい。
運命を待つてゐることを知らない立野信之[#「立野信之」はゴチック]
不安なステッキで身の巡りを探つてから
一歩体を出す要領者
呆然としていゐる時間が多い人。
徳永直[#「徳永直」はゴチック]は礼讃者と忠告者とをごつちやにしてゐる
この辺で君は君の名簿を二つに分けたらいゝ、
君の将来と、君の健康のために。
なんて馬鹿丁寧な人生
島崎藤村[#「島崎藤村」はゴチック]のお低頭《じぎ》と謙遜も
度が過ぎれば狡猾となる。
横光利一[#「横光利一」はゴチック]は小道具の波の音でたくさんだつた、
涯々《はるばる》船酔ひを味はひに渡仏した
文学者としても旅行者としても身の程を知らない。
縞ズボンを余りに早く履きすぎた石川達三[#「石川達三」はゴチック]
文学の社交場で息を切らさしてゐる。
文壇の情誼廃れない間は久米正雄[#「久米正雄」はゴチック]は廃れない。
亀井勝一郎[#「亀井勝一郎」はゴチック]は不安の精神を詰めこむ安楽椅子《ソファー》造りになつた。
岸田国士[#「岸田国士」はゴチック]、彼は悔いを招くために諷刺小説を書いた。
短兵急に生きてゐる中野重治[#「中野重治」はゴチック]
思ひつきでなくジックリと懐ろから
取り出したやうな大きな作品を見せて頂戴
引掻く貴女の爪は血を流すが
掻かれた相手はカユイ許りだ
可愛いといふよりもカユイ人板垣直子[#「板垣直子」はゴチック]よ。
尾崎士郎[#「尾崎士郎」はゴチック]、彼の作品は良かれ悪しかれ
これまでは小説に箸のつけ方を知つてゐたがこれから先のことはわからない。
評論をやることで文化人で――、
消費組合の土台をヱンヤラヤット
打ち込む手伝ひをすることで階級人である
新居格[#「新居格」はゴチック]は河馬のやうな格好で
人生をはにかんでゐる。
丹羽文雄[#「丹羽文雄」はゴチック]は新しい道徳をつくる力もない
通俗から這ひあがれない蛾
頭が軽くて、尻が重いところだらう。
中河与一[#「中河与一」はゴチック]は、波の上でいつも
扇のカナメをねらつてゐる
波も動かず扇も動かねば
もつとよく当るのだが。
小説の嘘のつき方の足りなさ、空想の未熟、
室生犀星[#「室生犀星」はゴチック]の頭の中に
酵母菌がたりなくなつた。
谷川徹三[#「谷川徹三」はゴチック]は文学の周囲を巡る謙遜さがある
文学が君の周囲を巡りだしたら
読者は一層助からない。
矢田津世子[#「矢田津世子」はゴチック]は芥川賞の候補になつた
こんどは小熊賞の候補にしてやらう。
舟橋聖一[#「舟橋聖一」はゴチック]は「飛んだり跳ねたり」
豊田三郎[#「豊田三郎」はゴチック]は「起きあがり小法師」
共に行動主義のもとに
ナチオナル・ゾチアリズム、血縁的同胞主義。
河上徹太郎[#「河上徹太郎」はゴチック]は――蒸溜水
三木清[#「三木清」はゴチック]は――工業用アルコール
前者は栄養にならず
後者はツンと鼻にくる。
岡本かの子[#「岡本かの子」はゴチック]は仏の路を説かうとも
あなたは女臭ひ許りだ。
藤原定[#「藤原定」はゴチック]はおちつかない
狐のやうに後をふりかへる哲学をもつ。
深尾須磨子[#「深尾須磨子」はゴチック]は
コレットとミスタンゲットの写真を抱いて寝る
情熱の色あせるとき頬紅は濃し
彼女はカルコの詩のやうに
「身を守ることに限りはなし」だ
元気を出しなよ、
そして僕と情死《しんじゆう》しよう。
川端康成[#「川端康成」はゴチック]のエゴイズムが辛うじて
彼に小説を綴らしてゐる
一人よがりの理解をふりかざして
踊り子と読者を追ひ廻す。
広津和郎[#「広津和郎」はゴチック]は人生の攻め方を忘れさうだが
文壇の攻め方は忘れない
彼はよく引つ掛ける
論争の刺又《さすまた》をもつてゐる。
チャッカリ屋、吉屋信子[#「吉屋信子」はゴチック]
女だてらに原稿料の荒稼ぎ
河童の頭の皿に精々
注いで貰ひな
黄金の水を――。
岡田三郎[#「岡田三郎」はゴチック]は端麗な顔すぎた
人生とは君のやうに顔立の揃つたものではない
桁をはずして好漢暴れろ。
徳田一穂[#「徳田一穂」はゴチック]は親父秋声の子だ
作品的にもイデオロギー的にも
残念ながら親孝行すぎる
反逆の子でなければ吾が友ではない。
気の利いたことを言ふ点と
判らないことを判つたふりをする点で随一
文学のダニ芹沢光治良[#「芹沢光治良」はゴチック]。
中原中也[#「中原中也」はゴチック]は書くものより
名前の方がずつと詩的だ
そつと尻をさするや
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