情してゐる、
醒めよ、評論にも肉体にも
一切の同情を避けよ、
孤立することを怖れる
君であつては
永遠に夜の世界を歌ふ
フクローに属するだらう。


横光利一について

純芸術の壁にぶつかり
なにかにと理由を附して
芝居がかりのロッポーを踏んで
花道から通俗小説へずり込んだ
こゝもあまり住み場所がよくなからう、
今度は日本に
ながい草鞋を履くか、
納得のできないのは
横光利一洋行説である
モダニズムを仕入に行くなら
話が解つてゐるが
ファシストになりにゆくなら
大枚の旅費を使はなくても
日本の中でも結構テーマに不自由はしまい
なんのための洋行ぞや
まあ、祖国を離れて日本に文学ありやなしや
といふ疑問にぶつかつてきたまへ。


窪川いね子について

あなたは
文学は女子一生の事業なりや
否やといふ疑ひは、もちますまい、
だが妻君稼業は
女子一生の事業なりや、否やといふ
疑ひはおもちでせう、
それが正しいのです、
ほんとうに世話のやける
亭主をもつたのが
あなたの不運ですよ、
同情しませう、
男の種類はアサリ貝の模様ほど
千差万別ありますが
泥を吐かしてしまへば
みんな同じ味ですよ、
あなたはまだ鶴次郎に
ほんとうにドロを吐かせてゐない。


菊池寛について

文学に見切をつけて
馬鹿面をして口をあけて
馬の鼻つらを睨む
競馬ファンの一人に
加はつたことは聡明である
あなたさまの文学観、人生観、
すべて真理に関することごとくのこと
投機のごとく考へてゐるのは達観なり、
そして見事に『文芸春秋』は当つた
もつとも投機的である
競馬でアテたためしがないのは
いかなる人生の矛盾ぞや、
あなたの運命は
文学を始めたときからでなく、
競馬を始めたときから変りだしたのだ。


新居格について

自由主義者としての貴方は
その主張のアナキスチックな
個所を取り除けば立派だ
たゞ文章の中にいつも
マルキストを攻撃する章を加へることは
あなたの終始一貫して渝《かはら》ない信条
狡猾な生活上の『現状維持《ステータス・クオ》』の
方法でなければ幸いなるかな、
その立場からマルキストを
諷刺する勇気も勃然と起るだらうし、
時代の運行のハンドルを
逆に廻さうと努力する
腹黒い船長のやうな
役割を果すことができよう。
善哉《よいかな》。肥満人新居格氏よ、
身をもつて思想上では
無節操と自由とを

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