のんで
かすかな沸騰を味ふかね、
仲間割れをするのには
いまがいゝ潮どきだ、
まごまごすると
ハマグリに笑はれるだらう。


林房雄について

いよいよあなたに
方向転換のときが来た
あなたはそれを御存じか、
重いツヅラをとるか、
軽いツヅラをとるか、
君は無慾を発揮してはいけない、
重いツヅラの諷刺性をとれ
あなたの抒情性には
みんなに交際あきてゐる
毛脛と毒舌と本性を
披露すべきだらう、
ただあなたのいふやうに
蟇の冷血症では
諷刺は書けない、
どうやら私とあなたは
体質が合ひさうだ、
私の温い輸血を
進ぜませうかね、
それとも奥様で
間に合ひますかしら。


平林たい子について

あなたの男性憎悪症を
支持する女共は
あなたの持ち合せの『強さ』を
こえることのできない
弱虫ばかり、
あなたを支持する男性は
みんな度胸のある豪い人間ばかり
私も勿論その一人に加へていたゞきたし
林もさうだし、広津もさうだ、
宇野浩二はテーブルスピーチでは
手をふつて
賛否を声明しなかつたが、
彼のモミアゲの長さ、顔の長さが
女性主義であることを証してゐる、
あなたを支持することは
男にとつては確かに度胸が要る
あなたは作品の硬さで
男を殴る気配を示すから。


青野季吉について

尊敬すべきは青野の吃音である、
人々は言葉多くして
真実を語らず
青野は言葉少くして
涙をながす、
たゞ彼にとつては真実を語るのに
辞書の文字
あまり多くして
悩みの種である。
彼に原稿紙の上でまで
吃りになれとは誰が
求めることができようか、
せめて文章を書く
唯一の自由を彼に学ぶべきであらう
部分的には『純情』を売り、
全体的には文字を売つて
生活してゐる彼を見遁すべきだ、
俗にいふ、好漢惜しむべきは
あまりに好漢である。


森山啓について

君に作品を批評されて
感謝してゐる作家を
僕は寡聞にして聞かない、
評論家森山は作品の
正面から組みついてきたためしがない
一応賞めておいて
『明日に期待する』といつた風な、
批評をすると定評がある、
君は作家同盟時代に
玄関を締めて
裏から出入りした癖を、
まだ治さないのか
こゝな、情勢を知らぬ
親不孝もの奴が、
評論の世界での思索の浅さ
詩の世界での古典的感傷性、
それを支持する幾人かの
保護者もあらう
だが多くは君の理論を
愛してゐないで
君の病弱に同
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