だ
その上、お前は少しも後を振返ることをしない
停まらぬローラースケートか、
火の靴を履かされたやうに駈け去つた、
がら/\と音をたてゝ道路の上を――、
シュッ、シュッと音をたてゝ川の中を――
父親は悔いてゐる
寝てゐる床にお前の心の中の黒い夢が
大きくなつてゐたことに気がつかなかつたことを
母親も悔いてゐる
どうしてもつとあの子の枕を
しつかりと押へておかなかつたかを――、
誰もお前を愛さないとは言はない
お前はとつぜん抱擁の時を
ふりきつて遠く旅立つたゞけだ。
雲は星を掩ひかくして
夜の街を真暗にしてしまつた
悪い夢に加担して月まで忠実に欠けた
たくさんの褐[#右下の部分は「蝎」の右下部と同形]色の梟が降りて街角に立つた
彼等は精一杯羽をひろげた、
息子よ、お前が旅立つた後の街の様子は
曾つての日の美しさを全く失つた、
風は季節、季節にやつてこなかつた、
そして警笛が花を散らした
あるゆる自然なことや
不自然なことが灰のやうに降つた
人間が荒廃するかのやうであつた
間もなく不安は去つていつた
だが息子は戻つて来ない、
すぐ明日にも元気で帰つてくる、
或はお前のかはりに「永遠」が帰
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