へて子供を育てゝゐたらいゝ
お前は何時までも
寒い白い夜のことを忘れてくれるな。


悲しみの袋

わたしは一人で
歌つてゐるのではない
合唱してゐるのだ
そして私は、君の眼からは
勇敢に見えるのだ、
君はたんと誤解したまへ
私は誤解されるために
詩を書いてゐる
君が現実を誤解するのは
合理的だし上手なんだから
私が歌ふと
木霊がかへつてくるよ
だから私は淋しがらない
君の悲鳴は
自分のところへ
もどつてきた例しがない
君は悲しみの入つた
立派な袋だよ
悲しみのある間はいいさ
だしきつたら
袋は強い足に踏みつけられるだらう
私の口はたたかつてゐる
帆が風にたたかつてゐるやうに
波と風との速度の早さに
窒息しさうだ
船は音高くきしる
それが私の悲鳴なのだ
高い――悲鳴、それこそ君の耳に
勇敢に聞えるところの私の歌だ、
私の眼からは戦ふことも知らないで
流れ去つてゆく
君の方がはるかに勇敢に見える。

−−−−−−−

愛情詩集


痲痺から醒めよう

私を可哀さうだと
思つてくれるのか、
そして抱擁してくれるのか、
いゝ理解と、かわいゝ愛よ、
政治をうしなつた青年の
血みどろの焦燥を

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