二人はかう言ひながら
たがひに手をとりあつて
どんどん韋駄天走りに家にかへつた
母親は不気嫌であつた、
そして父親は笑つてゐた、
妹よ、
あの白い夜のことを覚えてゐるかい、
あの時、少女であつたお前は
今はもう三人の子の母親になつた、
きのふ私が金を借りにいつたら、
お前は瞬間しぶい顔をしたが、
金を借してしまふと
もとのなつかしい顔にかへつた
私が玄関で靴を履いてゐると
お前は傍に坐つて
いかにも改まつたやうな口調でかういつた
――兄さん
どうして貴方は
社会主義者になどなつたのよ、
わたし、何にも訳がわからないから
廃せとは言はないけれど――
あんまり、警察なんかにいつて
体をこはさないやうにしてね、
私はフッと笑ひながら
――どうしてなつたのかな
と空うそぶいた、
弟は戸棚から菓子を出してきて
紙に包んで手渡した、
弟よ、お前は私の歳が
いくつだか知つてゐるかい
妹よ、お前はまだ
白い夜にたがひに手をとつて
駈けだして帰つたころの
小さな兄妹のやうに思つてゐるのだらう
心配するな妹よ、
お前は社会主義の
『社』の字も知らなくても
お前はしあはせに
亭主に仕
前へ
次へ
全33ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小熊 秀雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング