忙しさうにしてゐて
それは何事のためにか
悲しさうにしてゐて
それは何事のためにか
生活とは
民衆とは
いつたい何なのだ
もつとも日本人位
つまらなさうな顔を
してゐる人種がないのに
一層トスカは
日本人の額をつまらなくしてゐる
誰が我等の
性格、表情を噛み殺したか
前世紀の龍のために
すべての民衆は
ホールドアップだ
そして恐怖は
生活をまつ蒼にする
深い溜息のために
長い行列のために
民衆が覚えたものは
泣くことの技術である
たゞ労働するものゝ
胴の中の太いベルトが
笑ふ力を失つてゐないだけだ
ほつゝけ歩るけ
運命の靴を減らしに
街の中を
哀れな小市民は郊外にゆけ
思ひ出したやうに
突然桜は咲いて
春を告げるだらう
そして痩せ我慢のこの花は
ものゝ三日も美しくない


運命

あゝ、運命といふものがお可笑しな
歌うたひと一緒に
こゝまで連れだつてきた、
運命よ、お前に感謝しよう
私はお前を色々の立場から歌つてきた
色々の角度から可愛がつたり
憎んだりしてきた
甘やかされた生活に
呪はしい火の粉をふりかけられたとき
私はどんなにお前を憎んだらう
でも、今はお前のことを恨んではゐな
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