ーヒューと口笛をふき十文字に走りまはる
悪魔も窒息するほどの
動揺する空気の中で生活するために
男達は続々と出かけてゆく
地面の中に智恵は埋没され
理性は空にむかつて射ち出され
すべての樹は葉を閉ぢて毒を避け
家畜は野の一隅に身を避けてゐる
都市の建物の壁はもたれる者の
重い体を支へることができない
河水は水の色を変へ
一切の自然は人間の競技場として
適当な掩護物を除くほか
見透しの利くやうにしてしまつた
そこで何が行はれ
如何に楽しい食事が始まつたか
ナイフを加へると新しい血を滲ませるほど
高給なコックに依つて巧みな調理で
豊富な肉は処理されてゐる
そこには食卓の上に争ひもなく
平和以上の静けさで骨肉の軋轢もなく
食ふものと、喰はれるものとの
計画された配分通りに行はれる
ただ次ぎ次ぎと血と肉とナイフとは
運ばれてくる
魂をとろかす快感を求め
倦まず撓まず饗宴に向ふ列
招待者の発する招待状には
鋭利な石器を打ちちがへたマークが刷られて
その招待を拒むものは鈍器をもつて
撃たれるさうした悲しい運命をもつてゐる
時よ、早く去れ
時よ、前へ
ただ私はそれのみ夢の中に描く
すぎさつた時間は、
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