袋のやうだ
人々はその中へ疲労と倦怠とを
もちこんで前後不覚だ、
君は突然寝床の上に起きあがれ
そして何事かを考へてみよ。
君の見えないところに僕が坐つてゐるだらう。
地球が始まつてからながい
だが僕が見た地球は全く新しい、
青年が老いてゆく――
そんな馬鹿なことがあるものか
若い人よ、わが友よ、薔薇よ
石臼のやうな歯をもつた人よ、
ばりばりと歯を鳴らせ。


時よ・早く去れ

雑然とした音響の中で
弱い人々の心を
鉄の輪で引き緊めるやうな
硬い、遁れることの不可能な
人々の群れたざわめきと
合唱とを今日もきいた、
朝もなく、日没もなく、
時もなく、処もなく、
そして年齢もなく、子供達もなく、財産もなく、
どよめき高鳴る声は
鋼鉄の箱からひきだされた白い蒸気の帯
無反省な者達が
一人の人間を囲んで列をつくり
愛情のあるものは
人々の眼立たぬところでそつと見送つてゐる
古い幻影は我々のところから去つてゆく
濃厚な猟と火山の新しい幻影が
新しい世紀の実在として
いま出発するものを待つてゐる
子供達や、妻や、両親が
馳けだしても到底追ひつくこともできない遠いところに
親指ほどの鉄の管が
ヒュ
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