の二階住居
罵しる詩を書く自由を自分のものにしてゐなければ
私は到底かうしたところに住むに堪へ難いだらう
自由はいつの場合もとかく塵芥の中で眼を光らしてゐる
幾人かの不遇なものゝために
生と死との間に自由を与へてゐるだらう
私もまたその間をさまよふのだ
冷めたい凍つた窓硝子に
顔を寄せ十二月の街を見おろす


幸福と退屈

ふしぎな時代に生れ合したものだ
その幸福さをしみじみと感じよう
人間と蛆と心中をするこの時代を感謝しよう
我々は生活の中で学びとつた沈黙の表情で
にやにやと笑つてすごさう
私は意地汚なく生きぬけるだけ
生きようとしてゐるものだ
火の歯車のなかに突入しようとする心を
じつと堪へて街を見る
白き千の箱、どれひとつ涙なくしては眼に映らぬ
退屈な奴はその退屈の長さだけ
キネマ館の周囲をとりまいてゐる
都会の哀愁は夕暮の靄にしづかに沈みただよふ
心躍らぬ奴は赤と白との玉を玉突屋の台の上で
ころがして遊びくらしたらいゝ
世紀を押し倒す力なく
ただ麻雀のパイは勇ましく倒れる

歯を抜かれた不快に似た不安が
永遠につづくかぎり
この酒のほろ酔ひも楽しいかぎり
まつたく何ものを怨むこ
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