味で
本質的であれと思ふばかりだ、
私は待つてゐる
古い人間ではない
古い智識や、古い学問ではない
待つてゐるのは新しい人だ
私は確信をもつて歌ひ
生活をつづける
私の詩は新しい人に理解されるだらう。
泣虫共はただ一瞬の流れの上の
木の葉のやうに過ぎ去るだらう
私の楽器は
古い人達の楽器とは調子が合はない、
夜の小川
あゝ、人生の味といふものは
なんて舌の上に絶えずたまるものだらう
私は幾度コクリと嚥みこんだかしれない
いくら嚥みこんでも
いつもこ奴は舌の上に這ひあがつてくる、
自分の舌を自分で噛むほどの
愚かしい生活をつづけながら
命のあるかぎり
生きねばならないといふことは
どういふことだらう
桜草や三色菫はまだ咲かないのか、
冬のさくばくとした土の色からは
春の気配などはお世辞にも感じられない
ただ雲の流れは早く
人の死ぬことが度々あつて
私は朝の新聞の黒枠を見ると
いつも思はずニヤリと笑ふ
咆えるより能のない犬が
けふも空地で咆えてゐる
こ奴がもし咆えるかはりに
火を噴く動物であつたら
千匹も飼つてをいて
東に向けて放してやるのに
新聞でみるとバクチ打が屋根からとびをりて
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