そして詩とはなにか――、
詩とは鼻の落ちた人間のつくるものなら
呼吸するたびに心がふるへるものだらう
あゝ、馬よりも退屈な小説家
いたづらに鼻を鳴らす詩人、
真理を語り、道徳をとき、
交友を鼠算で殖やしつくる生活よ、
心熱ければアイスクリームをのみ
心ふるへれば外套を着る
一切が便利になつた
平凡を愛する世界の怖ろしい力よ、


乾杯

千里も向ふに汚ない唾をひつかけてやるために
若い妖精の群をつくる必要がある
思ひなやむな
暁の葉がこぼした
いつてきの露を地が吸つた
洗濯シャボンも使はぬのに
自然はいつもあんなにきれいだ

人間は心を洗ふ手はもたないが
心を洗ふ心はおたがひにもつてゐる筈だ
葉がこぼしたものを土が吸つたやうに
君の渡した美しいもので私は顔を洗ひたい
自然の子としての人間の力を祝福して
ある共同的なもののために
けふは乾杯しよう


夜の霊

粘り気の多い暗さの夜の中で
酔ひは私の心と眼をはつきりさせる
人の心の奥底にただよふ
かよわい優しいものが
ただ月のかがやきに掩はれて
私の酔つた心にうつらない
どこの家なみにも
夜を素直な生活の一日の終りと
たやすく運命を定めた
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