ゐるから、
眼には人間に対する激しい愛情が
沼の上をよぎつてゆく風のやうに
水面をいつも掻きみだしてゐるやうに見える、
沼はそして死んではゐない、
生きてゐること、動いてゐることを
眼はわたしに知らしてくれる、
あなたの眼よ、
燃える愛の珠体よ、
顔の皮膚は物怖じをしてゐるのです、
でも眼はいつも深い沼か湖のやうに
思索的に光つてゐます、
たたかひを経てきた女の美しさを、
いつのまにかあなたは身につけてゐるのです、
わたしもあなたを取り巻く
雑多な愚劣な男の群の一人に加へて下さい、
女を愛する時間が豊富にあつて
それより以外に時間のいらない男のひとりに、
せつかちな忙がしい私を加へて下さい、
わたしはひとつの試練のまつたゞ中で
愛とたたかひとが両立することを
かたく信じて疑はない男です、
あなたは幾分そのことを疑がつてゐるやうです、
ハイネもそのことで悩みました、
『時代の大きな戦争《たたかひ》に
 他人《ひと》が戦はなければならぬとき』と
前置きをしてから
おづおづと愛の歌をうたひはじめ
そしてだんだんと夢中に歌つてゐる
愛のやさしい鎖にかこまれて
闘志をうしなふおそれはある
愛の幸
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