行かうか、
あるひは飛行機にのつて
敵を攻めに行かうか、
人類の愛よ、
キリギリスよ、
お前は細々と石と石との間に鳴いてゐる、
呼吸《いき》絶えんとして
絶えず、
あゝあ、情けない話だ、
いさましく我等、
愛の出稼人として出発し
大きな鎌を手にして
不正義を刈つて
正義の束をつくらうとしたが、
種の播き手は少なく
稲の刈り手は多かつたから
仕事はすぐおしまひになつた、
出発のいさましさに引き較べ、
しよんぼりとした
引揚げよ、
そして愛はキリギリスのやうに
石と石との間に鳴いてゐる、
呼吸《いき》絶えんとして、
絶えず、
あゝあ、情けない話だ、


あなたの寂寥に答へて

寂寥を私に訴へようとした
苦しさうなあなたの眼よ、
あなたはその寂しさの性質を
どうしても言葉で表現できなかつた、
わたしはすべてを知つてゐる、
何のためにあなたが苦しんでゐるかを、
あなたは私を
絶対的な愛でとらへることが
到底不可能です
そのことを考へてほしいだけです
わたしはブルジョア的な
恋愛至上主義でも
生活の上での愛情主義者でもありません、
わたしはたんなる生活人であり
社会の子です
解放されたものであり、
強く自由を求めるものです
制約の中にあつて
私をはげしくとらへてゐる総べてを
打ち破つて前進します、
個人の愛から、より拡大された
社会の愛へ、
二つのものの連《つ》ながりの強さ、太さ、
緊密の度合を知りながら
一人の愛人から
百万人の愛人をつくります。
私の愛はあなた一人の個人の愛の
所有に帰しません
あなたはそこに寂寥がある筈です
男への信頼が、不安となつて
ひしひしとあなたを襲ひ、捕へるでせう
女よ、純情家よ、
愛の本質と愛の方法とが
時代とともに移り変つてゆくことを
想像もしないあなたのために
当分はわたしは
仕事に熱中して不満な男でせう
苦しさうなあなたの眼よ、
眼は愛にみぶるひして澱んでゐる
あなたの眼が愛の社会性をしつたとき
どんなに明るく輝くことでせう
その日を私は根気よく待つてゐる、


林の中で

私はあなたの表情から
新しい時代性を知りとる
仰向《あをむ》いてゐるときあなたは楽しさうだ、
俯向《うつむ》いてゐるときは悲しさうだ、
しかしあなたの表情は硬い、
私はあなたの皮膚に現れた
表情の硬さは認めたくない、
あなたの眼が潤沢に
うるほつて光つてゐるのを知つて
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