五十四

大西はすべてのカタストロフ「終局」がやつてきたと思つた
あの女を叩きだしてしまふか、
サクラ子の毛布をうばひかへすか、
あの女と尾山と結婚させてしまふか、
育児係りの辞表を叩きつけてしまふか、
最後の勇気がいるときがやつてきたと考へた、
「君たちも変だよ、昼日中、雨戸をしめて
 睨めつくらをしてゐるなんて」
かういつてガラガラピシャンと雨戸をあけてしまひ、
ズボンのポケットから金をだして
ざらざらと畳の上に出す、
「サクラ子ちやんが、とつぜん踊るといひだしたんだ、
 所は銀座の真中で、
 そこで僕が歌ひサクラ子ちやんは踊つたよ、
 帽子をまはしたところが
 群集は僕の「託児所をつくれ」の
 名演説に感動してこんなに金を投りこんだよ」
すると尾山の顔にさつと暗い影が走つた、
「大西君、それだけはやめてくれ給へ!」
「教育上、よくないかね」
「さうはいはない、たゞ困るのだ」

   五十五

大西は興奮を始めた
「尾山君は、父親として自分の子供サクラ子ちやんと
 君の友人としての、この大西三津三を軽蔑してはいけない
 我々の行為が乞食の行為ででもあつたといふのか、
 サクラ子ち
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