―しかしりん子さん。子供のお守りには
オヤツがいるから経費がかゝりますよ。
りん子は財布の中から出した
五十銭玉を一つポンと投げだした
――今日一日中の育児料を差し上げますわ
――ありがたい。大西三津三はニヤリと笑つた
炊事係尾山は市場に買出しにでかける。
三十六
ところで掃除係りの古谷から苦情がでた
――りん子さん。仕事の割り当ての済まない男が一人残つてをりますよ
草刈真太君は何役ですか?
りん子はコケッティッシュにうそぶいて
――草刈さんは、わたしの亭主。
古谷典吉はをどろいた
――りん子さん、それは酷い
我々を雑役に追ひやつて
草刈の奴だけ丹前を着て収まるなんて、
草刈があなたの亭主、なるほど、
彼はゴクリと唾をのみこんだ
――亭主なんて穏やかでない
しかも我々の共同生活には
亭主などゝいふ封建的な動物はゐなかつた筈だ、
りん子さん、我々は不平です
もつと穏やかな言ひ方をして下さい
りん子はそこで斯う言ひ方を訂正した、
――私たちの共同生活会社では
わたしが女社長だから
草刈さんを、わたしの秘書といふことにしてをきませうね、
――ところで貴女の草刈
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