だ、
――ところで大西君も
 あの女に満更でもないだらう、白状しろ

   二十七

草刈の質問で大西三津三は悲しさうな顔をした
――まあ、待つてくれよ、
 おれといふ男はね
 女を好きになるまでには
 とても時間がかかるんだ
 それは悲しいことだよ
 りん子だつて好きとも嫌ひとも
 まだ判断がつかないんだ
 漠然たる不安の間に
 時に怖ろしく勇気が出ることもあるが
 あゝいふ、颯爽とした女と
 つきあつた経験がないんだよ
――さうかね、尾山清之助先生の感想は
尾山は答へない
愛児のサクラ子を寝せつけながら
ただくす/\と笑つてゐる
サクラ子は次第に眠気を催ほして
可愛い黒い瞼毛のまぶたを
とぢたり、あけたりして間もなく寝入つてしまつた

   二十八

――ところで俺だ、
 俺はあの女好きだよ
 彼女はいつも濡[#底本の「漏」を訂正]れてゐるカハウソといつた情味と
 精悍さを兼ね備へてゐる
『動物詩集』の作者、草刈真太は
絶讃する言葉に苦しんでゐるやうな
真に迫つた表情をする
草刈の形容は当つてゐる
彼女の小さな体は
いつも充実した感情で
水を出入りするカハウソによく似てゐる、
そし
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